同じ車両から降りた人波を見送り、私は途方に暮れる。
なぜなら、この駅のホームには階段しかないからだ。
手元にはキャリーケースといくつかの紙袋。この大きな荷物を持ちながらでは、老体の私に階段を登ることなどとてもできない。
電車を降りて数分、どうしたものかと階段の前で立ち往生していると、上から降りてきた屈強そうな青年が声をかけてくれた。
「おばあさん、良かったら僕が持ちましょうか?」
私はその申し出に喜んで甘えることにし、腕をまくり青年の後ろについて階段を登った。
青年の背中を見ながら、ゆっくりと足音を鳴らしながら階段を登る。
「それにしても重い荷物ですね。道中お気をつけて」
階段を登り終えた青年は、そう言ってホームへと去っていった。
今日は運がよくて助かった。
一仕事終えたし、帰りはこれで美味しいものでも食べようかね。
明日も、私は途方に暮れる予定だ。
【意味怖】とほほ の解説
このおばあさんはスリの常習犯。
階段で荷物を運ばせている間に、ポケットから財布を盗みとっているよ。
(盗んだお金で美味しいものを食べようともしているね)
腕まくり、一仕事という表現から重ねてきた犯行の数がうかがえるね。
おとなしく年金で暮らしていてほしいけど、明日もまた同じ手口で…。(途方に暮れることが予定に組み込まれてるのはおかしいよね)
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