駅から離れた位置にある温泉宿。
そこは名湯というわけでも、自然の景観が特別素晴らしいということもない、普通の温泉宿だ。
ただ、その温泉宿について最近気になる噂を耳にした。
どうやら深夜、旅館の周りを歩く白いワンピース姿の幽霊が出るらしいのだ。
その手のものが好きな人の間で回っている噂だ。この目で確かめてみる価値はある。
そう思い、私はその旅館に泊まってみることにした。
休日を利用し、バスやタクシーでそれなりに時間をかけその旅館を訪れた。
が、来たは良いものの、用があるのは深夜だ。
周りには特に観光名所もない。温泉も平凡なものだ。
仕方がないので深夜まで客室で適当に時間をつぶすことにした。
しばらくすると深夜が訪れる。窓から注意深く外を眺める。
念のため電気は消し、自分の身は内側に隠して覗き見るような形だ。
のぞき始めて1時間、2時間。
時間だけが過ぎていき、やっぱり噂はデタラメだったのかなと思っていると、そこに件の霊が現れた!
暗くて確認しづらいが、噂通り白いワンピースを着た、長い髪の女性のようだ。
フラフラとおぼつかない足取りで旅館の周りを歩いているように見える。
私は焦って、だが音は立てないように静かに覗くのをやめ、布団をかぶる。
本当に出た!その夜は興奮して眠れず、結局一睡もできなかった。
翌朝、入口で女将と従業員に見送られながら、私は冷めやらぬ興奮と共に旅館を後にした。
「今月で10人目。順調ですね」
【意味怖】温泉宿の噂 の解説
観光地でもない、温泉も普通。
そんな温泉宿が客を集めるためにとった手段、それが幽霊の噂を流すこと。
物好きの間で流行るよう噂を流し、実際に確かめに泊まりに来る人を作る。そうやって売上を確保するための旅館側の戦略だよ。
最後のセリフは語り手を見送る女将と従業員の会話。おそらく白ワンピの幽霊も人間が演じているだけだろうね。
とはいえ色々穴だらけの経営戦略だから、そう遠くない将来にこの旅館は叩かれそうだね。
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